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第2章
生徒会長は感情のない目で俺を見つめていた。すうっ、と左手が伸び、手招きをする。
どうやら俺を呼んでいるらしい。
小屋の扉をゆっくりと開けて、中へ入る。寒さ対策が万全なのだろうか、外よりはあたたかい。
「これ、君がやったのか?」
どうやら俺は何の根拠もなく、彼女がやったと決めつけていたらしい。
彼女は学校で振り撒く笑顔も愛想もなく、頷く。
「あーあ、見られちゃった」
言葉に、抑揚がない。
白くて柔らかそうな肌だと思っていたのに、今は陶器で作られたように固そうに思える。
ゴミでも見るような冷たい眼差しは俺に向けられたまま、動かなかった。
「ここの動物の世話、よくしていたの。だから、その動物が死ねば泣けるかなって思ったんだけど、無理ね」
ぐったりとした動物には目もやらず、淡々と話す。
こんな生徒会長、はじめて見た。
本当に、あの、生徒会長なのだろうか。
「泣きたかったのか?」
状況に追いつかない頭から出てきた言葉はたった一言だった。その言葉に生徒会長は唇の片側を上げて答えた。
「私、感情がないの。悲しいとか嬉しいとか、そういうのが分からない。周りの子たちを見て笑顔とか涙を流すとか、うまくやってきたからバレてないけどね」
背筋が凍るようだった。
あんなに女子と楽しそうに話しているのに、こんなに男子から人気があるくらい可愛いのに、すべて、嘘だった、なんて。
「あなた、ずっと私を見ていたでしょう。ずっと、前から」
思いがけない言葉に、俺は目を見開く。
「あなたには、バレる気がしてた」
彼女が俺に近づく。手を伸ばし、俺の左胸にそっと触れる。
「それとも、気がついていたの?私が演技をしてるって」
「そんなことはない。君は完璧な女優だったよ」
「完璧?……感情が欠落しているのに?」
唇が、弧を描く。
これも演技なのだろう。
「あなたといれば、何かが変わるかしら」
そう言って彼女は手を下ろし、小屋の扉を開ける。外気が入り込み、ぶるっと体を震わせた。
「明日から放課後、付き合ってくれる?」
無表情の生徒会長は振り返って続ける。
「面白いくらい顔に感情が出るあなたのそばにいたら、私にも少しは感情が芽生えるかと思って」
発想が柔軟すぎてついていけない。
そう思ったのも、顔に出ているのだろうか。
俺は彼女の後をついて、小屋を出る。完全で、けれど不完全な君を知った、優越感を抱きながら。
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