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ー2ー
ヒィヤァァァァ……
頭のてっぺんの百会のツボあたりから、魂が抜けていくような声がした。
「今度は何」
隣の席を見ると、全身をプルプルと震わせるタケの姿。
デジャヴか。
「また奥さんに怒られたの?」
「あぅ、あぅ」
上手く喋れない様子の後輩の目には、うっすら涙が浮かんでいる。
「泣くほど?」
「どぉしたのぉ?」
コピー用紙を抱えて通りかかった美鈴が、立ち止まってひょいと顔を出した。
「わかんない。突然、奇声を上げて」
「何だ何だ何だ」
野次馬根性を遺憾なく発揮した柴田が、キャスターをフル活用して、椅子ごと移動してきた。
「煙草の次は、酒か?女か?ギャンブルか?」
「まぁ、タケはどれもあり得ないわね」
「じゃぁ、どうして泣いてるのぉ?あっ、鼻水まで。汚なぁい」
美鈴が顔の中心に縦皺を作り、束紗は、デスクの上のティッシュを箱ごと差し出した。
「あじがどうごばいばず」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、豪快にブーンッと鼻をかむ。
「で、何があったんだよ」
心配してるのか面白がってるのかわからない口調で、無駄に肩のあたりを突っつく、という柴田のちょっかいには一切応じず、タケはデスクに置いてあった自身の携帯電話を取り上げると、黙ってそれを差し出した。
美鈴が右へ首を傾げる。
携帯を受け取った柴田は、画面がよく見えるように、黒ぶちの伊達眼鏡を外した。
「何じゃ、こりゃ」
声につられて、束沙もスクリーンを覗きこむ。
画面に写し出されていたもの。
それは、砂嵐のような模様を背景にした、白と黒の画像写真。
美鈴が、今度は左へ首を傾げた。
「ちょっとよくわかんなぁい」
「あれじゃない?病院の検査で撮るエコー写真」
「え!?どこか悪いのぉ?大丈夫?何かそぅ言われたら、顔が青白い気がしてきたぁ」
「タケは、元々色白よ」
柴田が唸る。
「これ、どーっかで見たことあるんだよな…」
真剣な表情で食い入るように画面を凝視して、記憶を掘り起こすために瞬きをする。
それを数回繰り返した末、ようやく「あぁ!」と声を上げ、黒ぶち眼鏡をかけ直した。
「思い出した。こないだドラマで見たやつだ。確か、嫁さんが旦那に『できたの~』って、…え?」
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