砂の城

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‐3‐ 日曜日の午後。 バスの青い車体を見送って、束紗(つかさ)は踵を返した。 道路の脇でつむじ風に舞う、乾いた茶色い葉っぱを見つめながら、手にしたショッピングバッグを持ち直す。 結婚式用の服を買いに行くため、今日は午前中に家を出た。 束紗(つかさ)の住む地区から繁華街までの直通手段はなく、丁度良い時間に到着するには、いつも通勤で利用する駅まで電車を使い、そこからバスに乗り換えなければならない。 休日なのに、平日と同じルートで出掛けるのは些かテンションが下がるが、効率よく行動するにはその方法が一番だ。 乗り継ぎのため電車を降りて、いつもの改札を抜けると、どんよりとした鼠色の空から吹き付ける強い北風が、頬を打った。 ブロックチェックのマフラーをぐるぐるに巻いてる間にやって来たバスに駆け足で乗り込み、車内で一息つく間もなく、バッグから携帯電話を取り出す。 スクリーンを覗くが、何の着信も無い。 時刻は午前十時。 いつもは朝早く、彼からメッセージが届くのだが。 独身と違って、子供がいると休日は逆に忙しいのかな。 寝ぼけた頭を揺り起こすような、大きな揺れに体を左右に動かしながら、外気との気温差で白くスモークのかかった窓を少し撫で、あらわになった風景を眺める。 人もまばらな駅の表通り。 準備中の札をぶら下げた行き着けの居酒屋が見えては通り過ぎ、その先にあったいつもの小さな公園が見えては通り過ぎていった。 たまにはこちらから、送ってみようか。 再び、携帯電話に視線を落とす。 受け身になり過ぎるのも、バランスが悪いだろう。 【櫻井紘平(さくらいこうへい)】の名前をクリックする。 きっと、お昼過ぎには返信がくるに違いない。 そこまで考えて、ハタと画面をなぞる指先を止めた。 これって、カレシからのメッセージを待つカノジョの思考じゃないか。 危ない危ない。 これは、あくまでも『両想いごっこ』。 彼からの定期的なメッセージを期待したり、その行動にモヤモヤしたりするのは、お門違いだ。 慌てて手の中の物を、バッグにしまう。 短い期間とは言え、メッセージのやり取りが習慣になってしまっていた。 もう少し、自制しなきゃ。 束沙(つかさ)は深呼吸をして、背もたれに深く身を預けた。 先程拭いたはずの窓は、すでに白く濁っていた。
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