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買い物が終わるとランチタイムギリギリの時間で、ひとり慌ただしくレストランに入るのも気が乗らず、そのまま帰りのバスに乗り込んだ。
何気なく、携帯電話を取り出す。
新着メッセージは三件。
エリからのお誘いメールと、化粧品会社からのメールマガジン二件。
以上。
ため息が出るのは、お腹が空いたせいだ。
いつもの小さな公園が見えてきた時、ふと、彼の会社の側のパティスリーを思い出した。
たまたま入った店だったが、結構美味しかった。
折角の休日だし、家に帰ったら、ランチ代わりのティータイムでもしようかな。
あ、買ったばかりのアールグレイの紅茶葉があった。
とても良いアイディアに思えて、束紗は窓際に取り付けられた降車ボタンを押した。
停留所に近づいたバスは、アナウンスと共に、ゆっくりとその動きを止めた。
ーーシャリ、シャリ、シャリ。
靴裏で、トウカエデの枯れ葉が音を立てる。
いつもの小さな公園の筋を入ると、さすが住宅街。
たまの休日、家族連れは少し遠くへ出掛けているのだろうか。
それともお家でまったり?
駅の裏通りには、人も車も見当たらない。
角にある赤い屋根のレストランも定休日らしく、従業員の気配すらなかった。
ゴーストタウンとまでは言わないけれど、二十五世紀とかの未来に、突然飛ばされた気分だ。
この調子だとパティスリーも定休日かもしれないな。
折角の妙案がフイになる可能性をひしひしと感じながら、シャリシャリ足元を鳴らしていると、前方から、たくさんの人の賑やかな笑い声が聞こえてきた。
時々、何かを突っついたように、ワッとどよめきが起こったりしている。
顔を上げた先にあったのは璃絋の通う保育園だったが、いつもの子供たちの雑多な騒ぎ声ではない。
統制がとれていて、大人の声も多い。
そもそも保育園って、日曜日もやっているのだろうか。
不思議に思って近づいて行ってみると、見慣れた黄色の柵には、金や銀のモールが隙間なく飾りつけられており、入口の所には、色画用紙を切り取った文字で、【クリスマスかい】と書かれた看板が立て掛けられていた。
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