砂の城

15/19
前へ
/149ページ
次へ
‐5‐ 足が鉛のように重い。 無理して履いてたヒールを玄関先で脱ぎ捨てると、立て掛けられたままのビニール傘が目に入った。 荒く閉じられたそれは、あの雨の日からずっと、ここにある。 初めてキスされた時、 彼の温かさを知った時、 あの時から分かってたんだ。 ブレーキなんて、とっくに壊れていた。 携帯電話を取り出し、話すべき相手を表示する。 何も悪くない。 誰も悪くない。 両想いごっこだって、わたしのためにしてくれたこと。 期間限定だけど、楽しかったじゃない。 言い聞かせて、立ったままメッセージを送信した。 傘を、目立つ所に置き直す。 ヒールを揃えて置いて、振り返らずに部屋へと上がった。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

237人が本棚に入れています
本棚に追加