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さちよは真っ赤な木の実のことで頭がいっぱいでした。一本の枝に無数に実った真っ赤な木の実が、それはたいそう美味しそうに思えたのです。
「さっちゃん、なにぼうっとしているの」
母の暖かな手のひらがさちよの小さな手のひらをしっかりと握りしめて、優しく引いていきます。
「あら河野さんじゃないの、」
さちよは母の手のひらをすり抜けると、親指を口にやって、高く空を見上げました。白く曇った空に、あの真っ赤な木の実がきらきらと光るのです。
右へ左へとおぼろげな足どりで、ようやく木の根元にたどりつきました。けれどさちよがどれほど手をのばしてみても、うんと背伸びをしてみても、真っ赤な木の実には届きません。
「さっちゃん!」
母が駆け寄ってきます。どうしたの、と母が聞くと、さちよはそっと空を指さしました。
「あらあ、きれいなナナカマドね」
さちよは顔を真っ赤にして泣くのでした。
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