Memory.1 【別れの挨拶、笑顔の旅立ち】

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「そうだよね?イリス」 ほら、横の奴が早速調子に乗って名前呼んできた。だから嫌だったんだよこのクソチビ。 「ええ、実はさっき色々あったの」 彼の腕に自分の腕を絡ませていたため、台詞に合わせて絡ませていた腕に少しだけ力を込めていつもの作り笑顔ではない笑顔を向けた。 彼を見上げていると目が合った後に彼はまた目を細めて笑った。その笑顔がとても愛らしくて、吸血鬼から視線を逸らす事にした。 そんな私達のやり取りで信憑性が増したのか、チビは吸血鬼に対する警戒を少しだけ解いてくれたようだ。 「イリス様が、珍しい...二百年前以来ですね」 「それ以上言わなくていいですから」 吸血鬼の城の外に出て、村への道を歩いている途中に昔の話を引っ張り出してくるチビを睨むと、出しちゃいけない話題とやっとわかったのか、急いで口を手で覆っていた。 吸血鬼の方はその話を聞こえていたにも関わらず、その話題を掘り下げて私に聞いてくることはなく、数回盗み見してもその度に私と目線を合わせてきていた。 さりげなく相手の服の裾を掴んで目で「なんで」って目線で訴えてみるも、吸血鬼は可愛いと思っているのかは知らないが、舌を少し出して無邪気そうに笑った。 舌を出していた時に吸血鬼の尖った八重歯がチラッと見えた。 わざとなのかなんなのか、取り敢えずチビには見えていなかったようでホッと胸を撫で下ろす気分だった。
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