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「...すみません」
「ずっと、ずっと前からイリスがどこかに行っちゃうって怖くて。だけど、昔にあの事件があってからイリスは心ここにあらずって感じで感情のほとんどがなくなっちゃったみたいで。だから今回、こんなにイリスが自分の意志を見せてくれて嬉しいんだ。凄く嬉しい、筈なのに...」
早口でそう言う彼女の言いたいことが痛いほどわかったから。
だから私は何も言わずに彼女の頭を撫でた。
彼女をこんなに悲しい思いにさせてしまったのは他ならぬ私だから。
今更私が何を言っても無駄だと、改めて現実とされて突き立てられたような複雑な気持ちになった。
「イリス、出立は明日にしようか。そう急がなくてもいいんじゃない?」
吸血鬼のその言葉が、私の心身含めての気遣いをしてくれているとわかったのだが、それでも私は今日に拘った。
何で今日なのか、なんて聞かれても具体的に答えれる自信はなかったけれど。
どうしても今日じゃなければいけなかった。
「すみません、我儘言って」
「いいよ、イリスの我儘は何だかんだ初めてだし」
そう言ったのは破壊神さん。
吸血鬼は目で破壊神さんに いいの? と訴えかけているようだったが、破壊神さんは笑顔で「イリスの帰ってくる家はここだから」と言ってくれた。
その言葉だけで、私はどれほど心が軽くなっただろうか。
「ありがとうございます」
言うつもりはなかったのに、私の口からは自然と今までの事を全部含めたような感謝の言葉が口から出た。
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