Memory.1 【別れの挨拶、笑顔の旅立ち】

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せめてもの抵抗で彼の脛を蹴ると、彼の服から手を放してスタスタと先を歩いて痛みに悶えている吸血鬼に「ざまあみろ」と言う意味合いを込めて舌打ちをかました。 「さっさと一人目のところ案内して下さい」 そんな私の無茶振りにも、あろうことかこの吸血鬼は笑って「分かった!」なんて言っているくらいだ。 前途多難と言う言葉が今の状況にぴったりなのではないか。 行き先が非常に不安になって来た、午後の出来事。 「そんなところも全部含めて魅力的ですね。いい加減諦めて僕と結婚したらどうです?」 「無理です」 今日このやり取りを交わすのは何回目なんだろうか。 願えば婚約でも結婚でも私は叶えなくてはいけないのに、そこまでしてまでこの吸血鬼はそれを無理強いしない。 ただ私に婚約をせがんで断られているのを楽しんでいるみたい。 ...やっぱり、変な吸血鬼。 「そんなこと言わないで、ほら」 いつの間にか私の隣に来た吸血鬼は無邪気に笑っていきなり私を抱き上げた。 驚いた私は抱き上げてきた吸血鬼を凝視するが、当の本人は少しだけ意地悪な笑みを顔に浮かべていた。 「お、降ろして下さい...っ!」 「僕と手、繋いで歩いてくれる?」 なんだろう、この何とも言えない気持ちは。 誘拐されたのに身代金は凄い低いみたいなそんな何とも言えない欲のない望み。 「...馬鹿なんじゃないですか?」
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