1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
ある日の放課後、部活を終えて帰る支度をしている時に彼女が尋ねてきた。
「明日から私も活動を始めようと思うの。」
「何を描くの?」
「えっと、それは明日分かるわ。何をつくってもいいのよね?」
「そうだけど……?」
「よかった!では、また明日!」
彼女は楽しそうに帰っていった。
次の日、日直の仕事で部活に遅れた私は、美術室で予想外のものを見た。
「え、これって……」
「あ、日直お疲れ様」
「あたしは、いいと思うよ?」
美術部の友人は驚い疲れた様子で私を見た。
「えっと、何をつくっているの?」
「これ?んー、仏像」
彼女の左手には木でてきた仏像があり、右手には美術の授業でしか使ったのことない彫刻刀が握られていた。
「彫ったの?」
「正確には、今制作中」
「あのね、あたしが来たときにはもう彫ってた……」
どうコメントすればいいのか分からない。
これまで絵画を中心に活動をしてきた私たちは、どんな絵を描くのだろうと、昨日の帰り道に話していた。
それが、彫刻で、さらにはあまりに繊細な作業の積み重ねであることが見て分かり、もう驚くしかない。
彫刻だって美しいよ?
でも、あの彼女がするとは思わないじゃん。
「これはね、仏像といっても大仏とかではなく、八部衆の迦楼羅っていうんだ」
「……え?」
「奈良の興福寺にある迦楼羅をイメージして彫っているの。装飾は後にして、まずはクチバシからきれいにしたくて」
「えーっと……」
「直しても直しても納得できなくて……。本物はとても美しいのよ!」
「うん……」
「なかなかうまくいかないし、彫刻刀なんてなかなか買えないから美術室のを借りたの」
「そっか。うん、よかったね」
そんな彼女は卒業するまで仏像を彫り続けた。
とにかく彼女は仏像が好きなのだ。
今でも彼女の話はよく分からない。
ただ一つだけ変わったのは、歴史の教科書で仏像の写真を見ると、謎の親近感が生まれたことだった。
最初のコメントを投稿しよう!