レモン

僕は高井と正反対の存在だ。
彼が太陽だとすれば、僕はビルとビルの間の日陰に落ちた空き缶のようなものである。
常に他の生徒たちの存在に隠され、目立つことはない。
風が吹かなければ空き缶が転がることはないように、誰かに話しかけられて初めて喋る。
友達がいないわけではなかったが、人気とは無縁だった。
勉強はどちらかといえばできる方だが、それは長所といえるほどのものではなく、空き缶に飲み残された僅かなコーヒーのような、取るに足らないものである。
それでも、高井は僕が勉強ができることを羨ましがった。
そのたびに、完璧なうえに頭のよさまで求める彼を腹立たしく思った。