レモン

腹立たしくは思っても、高井に文句を言ったことはない。
言ったところで、僕の反感はやっかみにずぎず、却って惨めになるだけだ。
それだから、垣間見た彼の奇行を撮影し、この機会にひと泡吹かせようと思ったのである。
シャッター音が出ないようにしたスマートフォンで、個室のドアの下の隙間から、高井が“あれ”をしているところを撮影して。

しかし、例のトイレに高井が現れることはなかった。
昼休みの始めから仕舞いまで、階段の踊り場に張り込んだこともあったが、不発。
高井のクラスの教室にも、なぜか彼の姿はなかった。
もしかすると“あれ”をする場所を変えたのかもしれない。