レモン

14/21
前へ
/21ページ
次へ
ドアの下の隙間からカメラを向けようとした刹那、誰かが僕の肩を掴んだ。 心臓を直接掴まれたような感覚に、僕の身体は動きを失った。 思考が鈍っているのか、あるいは、鋭敏になっているのか、取るべき行動が分からない。 しかし、ひとつだけ明瞭なことがあった。 個室の中を撮影しようとしていたところを見られてしまった。 ドアの向こうから、トイレットペーパーを巻き取る音が聞こえる。 肩を掴んだ者はそれを聞くと、僕の右腕を掴み直し、トイレから引きずり出した。 途中、朧気な目でその者の顔を見た。 高井だった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加