王妃

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「……来週は、3年生に上がるに向けて一人一人進路面談を行います。大学進学や就職など、現時点での希望を考えておいてください。私からの連絡事項は以上です。それでは、みなさん気を付けて帰ってください」 担任の先生からの連絡が終わり、みんなばらばらと席を立ち上がる。 俺は帰る支度を済ませ、倉田有砂の席に向かう。自分で言うのも何だが、容姿端麗で成績も優秀、そして誰よりも優しい心を持っている自慢の彼女だ。 一見完璧な彼女に見えるが、ただ一つの欠点は、彼女に喋りかければ誰でもすぐに分かってしまう。 「有砂、帰ろっか」 「……」 有砂はいつも通り、無言のまま頷く。 有砂は声を出すことができない。 生まれつきではない。半年前、同じクラスメイトで有砂の親友でもある平沢まどかが行方不明になってしまった事件がきっかけだ。 有砂と平沢まどかは本当に仲が良かった。2人は同じ演劇部に所属しており、休み時間や昼食の時はいつも一緒にいた。傍から見てもとても気が合う様子で、有砂は俺といるときも平沢まどかの話をよくしていた。 そんなある日だった。 平沢まどかが学校に来ない日が一週間続いた。 有砂はひどく心配して、何度も彼女に電話したが一向に繋がらなかった。 俺は体調不良か何かかと思っていたが、その次の週、平沢まどかが原因不明の行方不明になったことを担任から告げられた。 それを聞いて、もちろん警察の捜索活動もあったが、俺と有砂も思い当たる場所は全て必死になって探した。 しかし、平沢まどかはどこにもいなかった。 彼女の失踪は有砂にとってあまりにもショックな出来事だったのだろう。 気付いた時には有砂は声を出すことができなくなっていた。医者の診断でも、やはり精神的なショックの大きさが原因だと言われたらしい。 それが、半年前の出来事だ。 有砂の声は今も戻らず、そして平沢まどかも見つかっていない。 「和泉! もう帰るのか?」 宮城洋平が遠くの席から駆け寄ってくる。 宮城は同じバスケ部の友人だ。半年前までは、授業が終われば宮城と一緒に部活に向かうのが俺の日常だった。 しかし、あの失踪事件が起こってからは何となく部活をやる気が起きなくなり、もう全く行かなくなってしまった。 これから3年生に上がり部活の中心になるという時期なのに、宮城には申し訳が立たない。 「宮城、部活のこと任せちゃっていつも悪いな」
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