微睡に浮かぶ旋律 第1話（完結）

第1章

　そして、彼が訪ねようとしている人物が目の前にあるこの小さな屋敷に住んでいる、ということらしい。
　しかし誰かに尋ねようにも辺りに人影は見えず、本当にこの家なのか彼は少し不安になった。
　とにかく門をくぐり玄関で人を呼んでみるしかなさそうだと考え、再び屋敷を見上げた時、かすかにピアノの音が聞こえてきた。そしてエルンストは自分の訪ね人は間違いなくここに住んでいると確信した。たとえ小さな音だとしても、明らかに良家の子女が習いごとで弾いているピアノの音ではなかったからだ。
　しかし正直なところ、約束もなく突然訪ねて本人に会えるかどうかはわからなかった。
　一か八かだと覚悟を決め、エルンストはその重厚な扉をゆっくりと叩いた。
　しばらくして扉が開き、歳は三十代半ばほどと思われる男性が現れた。仕立てのいい上着をしわ一つなく着こなした、背が高く端正な容貌の男だった。