辛い日々の始まり

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「今枝さんってK大なんだって――、 頭いいんだねぇ」 「…………………」 光希は今枝さんを囲んだ集団を見ながら 隣の席の俺に話しかけてきた 彼はクラスの一部の人間に 相当受けが良く 休み時間になると彼らに囲まれ あれこれ質問をされたり 彼の方からも この学校について聞いたりして とても楽しそうに話してる 今までの俺だったらそんな光景を見ても 何も思わないはずなのに…… 「…………………おい 聞いてんのか」 「ぇ……」 突然光希が低い声で 俺にだけ聞こえるように呟いた 途端に俺は我に返った 光希がこの表情をしたときはマズイ 「………ごめん さっきからお腹が痛くて」 「何それ 知るかよ 意味わかんね あぁ―― 気分わり お前家に帰ったら覚えとけよ」 「…………………」 「…………………今枝さん 格好いいし 頭いいし 気さくだし女の子にモテんだろうね 彼女とかいるのかな?」 「…………………」 「そりゃいるよね 女の子の方が放っとかないもん」 「…………………」 光希は何でこんなにも 今枝さんの事ばっかり言うんだろ 俺はもう一度チラッと 今枝さんを囲んでいる集団に目をやった 男子校とはいえ 集団にいる連中は 男相手であろうと構わずキャッキャと ハシャいで気持ちが悪い 正直 あんな連中に彼が囲まれてるのを 見るのは面白くない でもその反面羨ましくもある だって俺は絶対に彼に近づけない そんな事をしようものなら 彼まで変な目で見られてしまう 結局 彼としっかり目が合ったのは あの2回だけだった あれ以降彼は教室の後ろで 授業見学に耽っていた 時々 熱心に指導教員にあれこれ尋ねたりして 持参のノートに書きこんでいる 本当に熱血漢な人だ 俺は最初 この人が学校に戻ったと言ってた時 てっきり教師だとばかり思ってた 教育実習生なんかより 本当に教師だったらよかったな そしたら3週間といわず ずっと学校にいてくれるのに この人がここにいるのは後3週間 それまでには一言でいいから話しかけたい
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