辛い日々の始まり

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……………今枝さんは優しい 俺なんかにもこうやって優しく微笑んで 嫌がりもせずに触ってくれる きっと この人は誰に対しても 態度を変える事なく 優しく接するんだろうな きっと俺じゃなくても……………… …………………駄目だな こんな風にしか考えられないなんて 今はこんな事考えたくない せっかく2人きりなんだから もっと楽しみたい そう思いつつも どうしても嫌な考えが 頭の中にこびりついて離れない やはり長年蓄積された物は そう簡単に拭える物じゃなく どうしても自分なんかがと考えてしまう いつも前に進めずに 後ろに後ろに下がる事ばかりを 考えていた俺の人生が 積極的に今枝さんに話しかけたり 心から楽しんだりするのを制御して それ以上 踏み込ませないように 自分から逃げてしまう せっかく今枝さんが 気さくに話しかけてくれるのに 俺はどうしていいのか分からずに いつも俯いてばかり これじゃあ今枝さんも俺に呆れて 気分を害してしまうかもしれない もっと素直に甘えられたらいいのに 光希みたいに自分に自信があれば 自分の方から 引っついていく事だって出来るのに そしたら今枝さんの優しさに 素直に喜ぶ事が出来るのに 自分に自信が持てない 俺なんかがと思っている限り 今枝さんの優しさが辛い 「………………伊月、顔の痣 昨夜より酷くなってんな? どうしたんだ?」 「………………ぇ……………」 今枝さんがいつの間にやら 車を道路脇に横付けしたまま 俺の顔をさわさわと触っていた 突拍子も無い行動に俺は 思わず身を引き 上体を急に起こした事で シートベルトに身体を引っ張られた後 シートにドスンと戻されてしまった 「「……………………」」 しばらくお互い顔を見合わせて 黙りこんでいたが 今枝さんがプッと吹き出したのを切っ掛けに 俺も思わずプッと吹き出し さっきまでの緊張感が嘘のように 車内が笑い声に包まれていた 自分で自分が信じられなかった 俺が心の底から笑った事なんて あっただろうか まさかこんな下らない事を切っ掛けに 今枝さんとお互いの顔を見合わせて 笑い合えるなんて思わなかった
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