辛い日々の始まり

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「………駄目だ そんな勝手な事は許さない 俺に無断で行動を起こす事は許さない 勝手に死ぬ事も 勝手にあの家を出る事も許さない ……………お前には俺しかいないだろ? お前の本当の味方になってやれるのは 俺だけだろ? お前がほんの小さい頃から 常にお前に寄りそっていたのは俺だけだ あの馬鹿両親や光希と俺は全然違うだろ? お前はいつも俺だけを見ていればいい 俺の言う事だけに従って いつでも俺だけのものでいろ……… ………伊月……………」 「………………………」 俺の両肩を掴んでいる悠真兄さんの手が どしゃぶりの中 俺を探し走り回ったせいか 酷く冷たく震えていた 「………………伊月………… 頼むから俺を見ろ………… もう他のものは見なくていい お前の目の中に入れるのは俺だけでいい……」 「………………………」 悠真兄さんの言っている 言葉の意味がわからない わからないがわかりたくもない もう全てどうでもいいんだ 「…………………伊月……………」 「……………確かに俺は悠真兄さんのものです 悠真兄さんに色々な事を教えられたし 色々な事をされました」 「………………………」 「………………俺の存在が許されないのは わかってるけど…… でも辛いものは辛い…… 兄さんに憎まれてるのはわかってるけど でもでも……俺だって」「伊月……わかった わかったから落ち着いてくれ……… とりあえず場所を変えよう 家に帰りたくないんだったら 帰らなくていい……ホテルに行こう このままじゃ風邪を引く 伊月………いい子だから 俺の言う事を聞いてくれ…………」 悠真兄さんは何度も俺の肩を擦り 俺の顔を覗きこみ 少しの躊躇いの後 寒さに震える身体を初めて抱き締めた 驚いて目を見開き 悠真兄さんを見ようと 顔を仰いだが肩に顔が埋まれ見えなかった その行動の意味がわからなかったが 俺は考える事を放棄し ずっと消えない胸の痛みから 逃げ出したくて黙ってされるがままになった
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