辛い日々の始まり

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「…………………………」 「伊月………いい子だな……… もう死のうなんて考えるなよ……… 俺と一緒に行こう………いいな………」 「…………………………」 ………掴まれた頭と肩がギリギリ軋んで痛い 人に抱きしめられたのは初めてだった 悠真兄さんの肩に顔を埋めるように 抱き合ってたら微かに 悠真兄さんの匂いがした 嗅ぎ慣れた悠真兄さんの独特の匂い 暫くしてから悠真兄さんは俺の身体を離し 正面から向き合う形になった その表情を見て酷く心が動揺し掻き乱された 兄さんがこんな表情するなんて …………………悠真兄さんが こんな風に必死に俺に すがってくるなんて いつものあの美しい 鉄仮面のような表情からは 想像も出来ないほど 今の悠真兄さんは いつも綺麗にセットしている髪は乱れ 俺の目を真っ直ぐに見つめたまま 情けないほどに顔を歪めている ………………………………どうして どうして俺なんかに こんなにも必死になってるんだろう 今まで散々ゴミだ いらない 出て行けって 言われたのは何だったんだろう どちらが悠真兄さんの本心なんだろう 「………………伊月………寒いだろ……… こっちに来い………… 大丈夫だ もう殴ったりしないから…………」 「……………………」 「……………………伊月………伊月伊月……………」 悠真兄さんが俺の顔を両手で包み 雨に濡れて張り付いた髪の毛を 掻きあげながら まるで愛しいもののように まるで壊れ物でも扱うかのように 優しく包み込んで 親指で俺の唇の端をなぞった
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