辛い日々の始まり

35/103
前へ
/469ページ
次へ
それは彼に以前貰った名刺だった 部屋に置いておくと 誰かに見つかったら捨てられてしまうから いつも持ち歩くようにしていた …………まさかこんな形で これを使うとは思わなかった ホテルの備え付けの電話の受話器を取り 彼の携帯電話にかけてみた しかし 暫くコールが鳴った後 留守番電話に切り替わってしまった …………留守番電話に メッセージを入れるなんて考えられない すぐに電話を切り溜め息をつきながら これからどうしようかと悩んだ 名刺からの情報は携帯電話の番号と 彼の通う大学名 彼の家の住所だけ ……………これだけの情報じゃ どうする事もできない 「………………………」 ……………ほんの少し 様子を伺うだけでいいから 家まで行ってみようか 彼は何も悪くないのに あんな別れ方をしてしまったし もし 悠真兄さんが 彼に何かしていたとしたら………… …………………このまま放っとく訳にはいかない 駄目元で行くだけ行ってみよう……… どうしても気掛かりで気になって 仕方なくて 思う事はあるけれど それらを無意識にシャットアウトして とにかく彼の姿を 確認せずにはいられなかった そうと決まったら 出かける準備をしようと 昨日のままの状態の学校の制服を着込み 名刺を挟み込んだ 学校用の鞄を持ち 少し警戒して そろそろと辺りの様子を 伺いながらもホテルの部屋を出た
/469ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1134人が本棚に入れています
本棚に追加