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「え……原際さんそれってどういうことですか……?」
俺がそう尋ねると原際さんではなく、亜樹が反応した。
初めて見る亜樹の鋭い目つき、踏み込むなと目で語っていた。
だけど、ここで引いてはいけない。そんな気がして再度口を開いた。
「どういうことですか?」
「亜樹くんごめんね、亜樹くんのことだからきっとこうでもしないと話をしてくれないと思ってね」
昨日の今日で、そこまでわかるものなのか……と思いつつも確かに亜樹だったらうまく交わして逃げてしまうだろうなと納得できるところがあった。
「友達と喧嘩しただけです……」
動揺を隠すかのように落ち着いた声だった。
原際さんはなるほどと呟いて亜樹の拘束を解くと、俺に向き直り亜樹には聞こえないようにぽつりと呟いた。
「亜樹くんから目を離さないようにしてやってくれ」と。
そして、原際さんは今度は普通の声に戻りこう言った。
「俺、ここに入院してる患者に会いに来たんだけど迷ったわ」
てへっと効果音がつきそうなほどの笑みに、そんなこと看護師に聞けよと返事をして一人で何処かへ行こうとする亜樹の方へ足を向けた。
そして声をかけた。
「亜樹……さっきのこと……」
ちらりと亜樹が俺を見る。だけど、目線は直ぐ前に向けられ無視された。
「なぁ……亜樹……」
何度呼びかけても、もう振り向いてさえもらえない。
「なぁってば!」
じれったくなって声を荒らげると、亜樹はようやくもう一度振り向いてくれた。
「これ、ただ友達と喧嘩しただけだからさ。秀兄が気にすることは何一つないよ」
そして、そう言っていつものように笑った。
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