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「お前こそ誰だよ」
亜樹を片手で抱きしめながら体を起こす。
顔をうずめていても震えている亜樹の肩が、本人が泣いているってことを知らせていた。
だから、俺は何も言わずただ亜樹が口を開くのを待って頭を撫でた。
「俺は綺河 晴華だ!!!!で、お前は誰だ?!」
綺河……?どこかで聞いたような……気の所為かな。うん、この駄犬と同じ名字の奴がいたとしたら可哀想すぎる。
「俺は本宮 秀だ」
関わりたくないけど、ここで関わらないで逃げたほうが面倒くさそうだから一応名前を教える。
すると、亜樹の方が反応した。
びくりっと肩を震わせて、そっと顔を上げた。
そして、涙で滲んだ目で俺をとらえ声を震わせながら発した。
「秀兄……?」と。
見分けられてもらえないことなんて、もう今更のことだから泣き顔の亜樹に反して俺は笑ってみせた。
「そうだよ、昨日のこと気になってもう一度話がしたくてきたんだ。てか、きてよかった」
ぎゅっ。と亜樹を抱き締める。
きっと、今なんでって思ってるに違いない。だから、その全てに答えるかのように耳元でそっと呟いた。
「俺さ、裕希じゃなくて、亜樹が好きなんだ。亜樹じゃないとだめなんだよ」
ばかっ……と腕の中で呟く小さな声が聞こえた。
なんだか、笑えてきてくすりっと笑みを零してしまった。
それは、安堵の笑みだった。
だけど、先ほどから放置してるせいか煩い駄犬の扱いに困る。
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