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夕海高校の夏休みも中盤を過ぎた。今思い出してみると、夕刻ノ魔の戦いは夏の見せた幻のような気分だ。しかし、夕刻ノ魔との戦いは実際に起こったことで、最強クラスの逢魔は再び朱月川に封じられた。大勢の人が夕海町の中心街で逢魔を狩る者達が戦っていたことを知る者はない。
大夕海祭から一週間が過ぎた頃、明日香は珍しく寝坊してしまった。いつも、欠かすことなく行っていた朝の修練も忘れて。
夕刻ノ魔との戦いを経たせいだろうか、三月頃に巻き込まれた事件を夢見た。夕刻ノ魔にも負けないほどの恐ろしい少女の夢だ。夕刻ノ魔と少女、どちらかが恐ろしいかといわれると、悩みどころだ。どちらも恐ろしかった。
夢から覚めた身体は鉛のように重く目が覚めなかった。一週間経って、精神的な疲れが出てきてしまったのだろうか。
結局、辻明日香が最終的に目を覚ましたのは使用人の大場に声をかけられてだった。部屋の時計を見ると昼過ぎ。昼過ぎまで眠ってたことなど、今までなかった彼女にとって、これは初めての経験であった。
「大場さん。どうかしましたか?」
自分をわざわざ、起こしにきてくれた大場。単に寝坊していたから起こしに来たという訳ではなさそうだ。
「明日香さん。メイ町長がお見えになっています」
「メイ町長が?」
学生である明日香とは違いメイは町長という立場にいる。夕刻ノ魔を相手にした翌日にはもうメイは通常の公務に戻っていた。大夕海祭の後片づけの手伝いや夕刻ノ魔によってもたらされた市街地の被害確認。後者は特に念入りに調べた上で新しい予算として議会に提出しないといけないのだから。やることは山のようにあった。
一週間もすれば、少しは落ち着き、やっとメイは一息つけるのだが、そんな一息つく間もなく、『町長』としてメイは辻家を訪れた。
明日香は大場にメイを応接間で待っていてもらうよう頼むと、ベッドから降り着ていたパジャマを脱ぐ。昨日は連日続く熱帯夜だったのでパジャマには汗が染み付いていたは汗くさく、すぐにでも洗濯しなければいけない。パジャマを抱えて脱衣所に行くと、明日香は洗濯機にパジャマに放り込むと、サラシを外してお風呂に入る。シャワーの水圧はいつもより上げて、全身に強く水を浴び、目覚めきっていなかった残りの意識を目覚めさせた。
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