0人が本棚に入れています
本棚に追加
メイは大場より出されたお茶を飲みながら明日香が戻ってくるのを待った。公務が落ち着き、少し時間に余裕ができたので辻家を訪れた。個人的な用事でもあったので、秘書の神子には辻家の屋敷。石段を下りた所で公用車を停車させ待たせていた。
「いつ来ても、辻家は立派よね」
メイは応接間の窓から見える日本庭園を眺めながら呟いた。使用人の趣味で造られた庭ではあるが、その見事な造りはいつも感心させられた。公務の合間に、お茶を飲みながら日本庭園を眺める。空は嵐でも過ぎ去った後であるかのように穏やかだった。目を閉じれば、雀のさえずりが聞こえてきそうだった。
だが、メイの耳に聞こえていたのは、
「プー拓郎ォォォォ!」
同じ敷地内にある辻家所有の道場からの罵声であった。それを、壁や床を叩いたりしている音。
「・・・・」
何も聞かなかったことにしたいとメイは心の奥底で思った。
少し前、辻家に一時帰宅した高齢期だというのに現役のキャリアウーマン、明日香の祖母に当たる辻真理紗の声。真っ昼間から彼女の声が屋敷に響いてた。
「メイ町長。お待たせました」
メイが出された茶菓子に手を伸ばそうとしたところに髪を乾かして、簡単な私服に着替えた明日香が来た。フリーサイズの無地のTシャツに淡い藍色をしたズボンを履いていた。年頃の高校生なので流行に無頓着という訳ではないのだが、和物が好きだった努の影響もあってか明日香も普段、家にいるとはあまり派手な格好は好まなかった。それでも、学校の時の制服とは一風違う味がある格好であった。
「真理紗さんは、まだ休みなの?」
ソファーに座る明日香にメイは茶を啜りながら尋ねた。辻家に戻ってくることなど数年に一度、あるかないかというぐらい多忙な人だ。そんな彼女が、まだ家にいたのは珍しかったのだろう。
「元々、夕刻ノ魔に現世から対処する為に帰ってきたので、万が一のことも考えて数日ばかり休みをとってきたそうです」
「そうなの・・・で、彼女は今、何を?」
「和辻さんが、いつまで経っても働こうとしないから苛立って、働かせようとしています」
「道場で?」
「違います。様子を見に言ったら、和辻さん部屋から追われる形で道場まで逃げたみたいで」
最初のコメントを投稿しよう!