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とにかく私は、その時が来るまではせめて、家族の元を離れないでおこうと思った。
テレビは点かないから、代わりにラジオを点ける。
ノイズに混じって微かに、人の声がした。
テレビでの放送はしないのにラジオの放送はするって、どういう基準なんだ。
もしかして、放送する出演者自身の姿が、とてもじゃないけど公の場に出られるものではなくなってしまったのだろうか。
まあ、あり得るな。
G線上で高く美しく奏でられたクラシックを大音量で流しながら、マグカップのコーヒーを一口飲み、窓のカーテンを開く。
昼間だけど、カーテンを閉めておかなきゃ、1日過ごせたものではない。
今もそこで、誰かが誰かを、棒のような物で殴り付けていた。
あのように毎日暴動が起きているんじゃ、無傷の人の方が稀少かも知れない。
私は慣れた手付きでカーテンを一思いに閉め、ソファに腰掛ける。
『この地球が滅びるまで、残り50日となった』
ラジオから聞こえた。
毎日毎日カウントして、よく飽きないものだ。
『わたくしは、3年前から、このラジオを、放送し続けてきた。誰かに、届いているのだろうか』
嗄れた男の声は、息切れをしているようだ。
『3年前、地球滅亡が告げられたその日から、こうして、わたくしの声を届けている。何かが改善されたり、改悪されたり、そういった影響力は、全く以てないだろうが、わたくしのように正気を携えている人間が、まだ残っていることは、証明出来る筈だ』
ああ、まあ、確かにそうかもしれない。
私はコーヒーを啜る。ちょっと苦いな。
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