第1章

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父が、右手に持っていた物を床に投げた。 ゴトン、と鈍い音がする。 血塗れの鉄バットだ。 「食料探しで1人、食料を確保する時に2人、家の前で1人。さあ、合計は何人だ?」 本人はユーモラスたっぷりに言ったつもりだろうが、私はちっとも笑えなかった。 スーパーから獲ってきた食料をそそくさと片付ける両親を前に、私はただただ、絶望していた。 やはり、あのラジオの男はまともだ。 地球の滅亡が告げられ、日が近付くごとに不満や不安、恐怖心が煽られて、それを人間同士がぶつけ合う無意味な暴動が世界中で勃発する中、あの男だけは、いつだって落ち着いていた。 私はあの男のラジオを糧に、何とか人間としての感情を保ってきたのだ。 人を殺して、それを指折り数え、信じられない世の中だな、と笑う人。 そんな人間たちを、あの男は、高い所から見下ろしていた。 そんな信じられない世の中にしたのは、我々人間なんだと。 滅び行く地球で無意味な争いを始めたのは、紛れもなく人類なんだ、と。 私は、繋がらなくなったスマホを握りしめ、リビングを飛び出した。 せめて、その時が来るまではせめて、この家族と一緒にいよう。 そう決めたが、あの男のラジオが終わった今、耐えられそうにないと実感した。 私の名前を呼ぶ両親の声が、背中にぶつかった。 追って来ない。追えないだろ。 外に出たら、殺される。
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