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父が、右手に持っていた物を床に投げた。
ゴトン、と鈍い音がする。
血塗れの鉄バットだ。
「食料探しで1人、食料を確保する時に2人、家の前で1人。さあ、合計は何人だ?」
本人はユーモラスたっぷりに言ったつもりだろうが、私はちっとも笑えなかった。
スーパーから獲ってきた食料をそそくさと片付ける両親を前に、私はただただ、絶望していた。
やはり、あのラジオの男はまともだ。
地球の滅亡が告げられ、日が近付くごとに不満や不安、恐怖心が煽られて、それを人間同士がぶつけ合う無意味な暴動が世界中で勃発する中、あの男だけは、いつだって落ち着いていた。
私はあの男のラジオを糧に、何とか人間としての感情を保ってきたのだ。
人を殺して、それを指折り数え、信じられない世の中だな、と笑う人。
そんな人間たちを、あの男は、高い所から見下ろしていた。
そんな信じられない世の中にしたのは、我々人間なんだと。
滅び行く地球で無意味な争いを始めたのは、紛れもなく人類なんだ、と。
私は、繋がらなくなったスマホを握りしめ、リビングを飛び出した。
せめて、その時が来るまではせめて、この家族と一緒にいよう。
そう決めたが、あの男のラジオが終わった今、耐えられそうにないと実感した。
私の名前を呼ぶ両親の声が、背中にぶつかった。
追って来ない。追えないだろ。
外に出たら、殺される。
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