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外は、多分もう、滅亡している。
地球の滅亡は50日後、人間としての滅亡は、3年前。
道路は白い粉でも降りかかったようにくすみ、何かの破片が点々と散らばっていた。
周囲の建物は全部廃屋で、ガラスが割れているのはもちろんのこと、壁が破壊されている建物も少なくはない。
私が外に出たのは、何日ぶりだろうか。
高い空は、とても綺麗な青色をしていた。
こんなに綺麗なのに、終わっちゃうんだよなあ。
私はポケットからイヤホンを取り出し、スマホに接続すると、耳に差し込んで音楽を流した。
G線上で美しく奏でられたクラシックだ。ずっと、この曲ばかりを聴いている。
耳元で叫ばれても多分気付かないだろうところまで音量を上げて、ぐんと背伸びをする。
何だ、気持ち良いじゃん。
逆に、誰も正気を保っていないこの地球上で、優雅にクラシックを聴くのも、幻想的で結構悪くない。
このままふらりと、どこかへ行ってしまおうか。
気分良くそう思っていたために、その時起こったことが、すぐには理解出来なかった。
背後から強い衝撃を受けたかと思えば、膝がかくんと折れ、そのまま地面に転んだ。
その拍子に、耳からイヤホンが取れる。
両手を付いたので顔からダイブすることはなかったが、自発的に転んでいないことは明白だったため、私は慌てて体を反転させて仰向けになった。
目の前に、男が立っていた。
こいつが私の背中を押したのだ。
転ばされる程度ならまだ、良かったと思う。
しかし今の世間は、もっと無情だった。
男はズボンのベルトをカチャカチャと外し、鼻息を荒くした。
「こ、殺さねえから、い、いいだろ、な?」
そうか。
こういう人間も、いるんだな。
私は溜め息を吐き、青空を仰いだ。
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