第1章

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高い所から見下ろす気分はどうだい。 私も、男の前で仰向けになるくらいなら、高い所から傍観していたいよ。 体勢を変えようと腕を上げると、突然、大音量でクラシックが流れ出した。 何事かと驚いたが、なんてことはない、スマホからイヤホンが外れたのだ。 突然の大音量クラシックに身を竦めた男の隙をつき、私は仰向け状態のまま背中を丸め、両方の膝を胸の前に引き寄せる。 男がこちらに向き直った時、腰を浮かせて、右足を男の腹目掛けて一思いに突き出した。 男は今にも胃液を出しそうな呻き声を上げ、反動でうしろに倒れる。 私は素早く身を起こし、スマホとイヤホンを拾うと、軽い足取りで逃走した。 家に閉じ籠っている間、せめてもの抗いとして、護身術を学んでおいて良かった。 実績を出せた喜びで逃げる足取りは軽快になり、このまま空を飛べそう、そんな風にも感じる。 このまま、高い所から、人間を見下してやりたいな。 この空のように、ラジオのあの男のように。 私を救ってくれた大音量のクラシックをそのまま流しながら、とにかく走り続けた。 欲求不満男が追って来たって、何度でも撃退してやる。 そうやって私は、残りの50日を冒険するんだ。 突然、クラシックが止まった。
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