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第一章
母親とは損な生き物だ。
文字通り心身を削って子どもを育てても、見返りと呼べるものは幸せな思い出だけ。
妊娠出産によって以前の美しい体形は崩れ、出産後の過酷な育児によって容姿はみるみるうちに劣化していく。
もし子どもを産まずに仕事を続けていたらどんな未来が待ち受けていただろうかと思う時もある。
でも、そんな思いはすぐに消え去るのだ。
百合子は庭に作った小さな砂場で遊ぶ颯(はやて)の姿を想像しながらスケッチブックに新しい絵を描いていく。
颯の幼稚園が始まって一カ月もたつと、そのスケッチブックを使い切ってしまった。
描き始めた頃を振り返ろうとページをめくると、生き生きと遊びまわる颯の姿ばかり描いている。
「新しいの買わなきゃな」
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