回送 エピローグ

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雪に覆われたクトの町。 その玄関口、クト駅は今日も賑やかである。 「ミンデンさん、遅いなぁ」 「吹き溜まりに突っ込んでなきゃいいけど」 コンロストーブに載せたお汁粉の大鍋を囲んで暢気に会話するスロロコ夫妻。制服こそ着用しているものの、その暢気さからわかるように今は勤務時間外である。 というのもスロロコ、長年クト駅で研修駅員の教育係を務めてきたことが評価され、クト駅駅長の役職はそのままに、国鉄本社直轄の教育会議の有識者に抜擢され、数日に一回クトとキングススワローを往復する身となっていた。 本人達は駅長・副駅長としてもバリバリ働くつもりであったのだが、流石に身体の心配をしたスラント支社長らに説得されて大幅に勤務時間が減らされていた。 しかし、この二人がじっと休んでられるハズもなく、皆のおやつ作りだなんだと理由をつけてはこうして駅務室に通っているのだった。 「そう言いながら、全然心配してないですよね……」 スロロコのあまりの悠長さに改札窓口で苦笑いしているのはマリーナ=クロステル。スロロコの在駅が大幅に減るに当たって昇進した彼女だが、かつてのドジっ子はすっかり形を潜め、赤帯に金線1本の制帽が様になる駅長補佐として、クト駅の要となっている。 「そりゃまぁ……」 「ねぇ……」 相変わらず暢気なスロロコ。当然のように、ミンデンに限って事故の心配はないと確信しているからこそのこの暢気さである。 「マリーナ先輩、クト発で新幹線と夜行急行、連絡船を乗り継いでボクスハウスまでの切符って……」 出札口に座っていた少女が何やら面倒な切符の発行を頼まれ、隣に立つマリーナに助けを求める。 彼女——東雲タトラはこの秋からクト駅に配属された研修駅員である。 庶務と事務の研修を終え、数日前から出札業務の現任訓練に入ったばかりの彼女は、マリーナたちから見れば8つ下、スロロコから見れば9つ下の後輩にあたる。 「固定の切符はないから補充券対応ね。台紙は右の二番目の引き出しに……」 現任訓練に入る前に一通り教育訓練で説明してあるのだが、いざお客さんを前にして実践となるとやはり焦ってしまうのは当然のこと。かつての自分もそうであったと懐かしさを感じつつ、タトラが不安を感じないよう優しく声をかけるマリーナ。 「すまんね、新米の駅員さんにややこしか切符頼んで……」 そんな2人の様子を見て、切符を頼んだお客さんが声をかけてくる。その声の主は、マリーナもよく知る人であった。
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