回送 エピローグ

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「……平さん?」 声の主は平さんこと、グラスカステン=ヤマシタ=平左衛門。 「マリーナしゃん、おったとか!こりゃ新人さん困らせんでよかったとばい」 窓口の桟が邪魔で認識できていなかったマリーナの存在を認めるなり安堵する平左衛門だが、切符が間違いなく発行されるかより、新人であるタトラを困らせずに済んだというのが理由なのがいかにも彼らしい。 「やだなぁ平さん。僕たちもいるのに」 マリーナは改札窓口にいたので互いに見えなかったが、奥でコンロストーブを囲っていたスロロコは見えていたはずである。 「スロ君とロコしゃんは、そこに居るっちゅうことは勤務時間外ばい。邪魔する訳にはいかんっとよ」 それに、と平左衛門は付け加える。 「あんまりスロ君とロコしゃん働かせると、主任の胃が心配になるったいね」 スロとロコは別にワーカーホリックな訳ではない。 単純に自分にとって嬉しいこと楽しいこと──誰かの役に立つこと、誰かの笑顔を見ること──が仕事の範疇に丸被りしているだけで、本人達は労働している意識など皆無だったりする。 だが、それはそれとしてこの世界にも労基法はあって遵守が求められている。いくら当人たちが働いてる気はないといえども、超過勤務は超過勤務であり、度が過ぎれば当然監督官庁からお叱りが入る。 あまりにもナチュラルに、そして流れるように超過勤務を重ねてしまうスロロコに、いつ監督官庁から指摘が飛んでくるかとスラント主任はヒヤヒヤしっぱなしであり、某釣りバカ万年平社員の上司S課長程ではないものの一時は胃薬を常備するハメになっていた。 これではスラント主任の胃袋がいくつあっても足りないと心配したクロップス支社メンバーおよびOBのエンドウ元主任たちによって、とうとうスロロコには"休憩中は駅長・副駅長の腕章を外して『休憩中』の腕章をするように"という指示と、平左衛門はじめ関係の深い利用客には"休憩中のスロロコに仕事を頼まないように"というお触れ──というよりは懇願が出されるに至ったのである。
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