428人が本棚に入れています
本棚に追加
『勇者さま、朝ですよっ!』
小鳥の囀ずりに少女の呼び声が重なる。
開け放たれた扉からは、日輪草のように明るい少女がいた。少女はふりふりのドレスに黄金の髪。青のリボンがアクセントをつけ、少女らしさを一面に出していた。
華やかな彼女はにこにこと微笑みを絶やさず、勇者が寝ているベッドまでやってくる。
顔まで埋まっている毛布を引くと、再度起こすために息を吸った。
『あーさでーすよー。朝です、朝。太陽が輝いてます!』
勇者と呼ばれている少女は返答として、うーと唸りを上げた。毛布が引かれたことで朝日が当たり、近距離の叩き起こしに身を捩る。
窓からの日光は確かに気持ちが良く。勇者は毛布にくるまって幸せな朝だと実感した。
もぞもぞと手だけ動かして毛布を奪い返し、弛緩した寝顔のまま毛布の温もりにくるまる。こんな日は二度寝だなと、勇者は自分の意思を尊重することにした。
あくびを一つ、少女へ背を向け。
『……ねむ、だる、あと五時間』
反対側へと寝返りを打った勇者。
『もうっ。ほら、起きないと。ダメですよ、今日の予定は詰まってますよー』
少女は勇者の毛布を無理やり剥がす。
そこには十代半ばの少女。温もりを失って恨めしそうな目を送る勇者がいた。
『えー、やだ』
駄々を捏ねる少女であっても、見かけによらず選ばれた勇者なのだ。
そして毛布をひっぺ剥がした少女も十代半ば。勇者と歳が近いということもあってセットにされている。
『そう言わずに。ほら、今日も一日頑張りましょう。おー! さ、勇者様も一緒に、おー!』
『……ぉー』
一人は元気良く片腕を上げ、快活に朝を迎えようとする者。
もう片方は寝癖で跳ねた前髪をそのままに、口だけ適当に呟き、朝に弱い瞼をしぱしぱとする者。
彼女達は対照的だが、仲は良い。
最初のコメントを投稿しよう!