二話

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『勇者さま、朝ですよっ!』  小鳥の囀ずりに少女の呼び声が重なる。  開け放たれた扉からは、日輪草のように明るい少女がいた。少女はふりふりのドレスに黄金の髪。青のリボンがアクセントをつけ、少女らしさを一面に出していた。  華やかな彼女はにこにこと微笑みを絶やさず、勇者が寝ているベッドまでやってくる。  顔まで埋まっている毛布を引くと、再度起こすために息を吸った。 『あーさでーすよー。朝です、朝。太陽が輝いてます!』  勇者と呼ばれている少女は返答として、うーと唸りを上げた。毛布が引かれたことで朝日が当たり、近距離の叩き起こしに身を捩る。  窓からの日光は確かに気持ちが良く。勇者は毛布にくるまって幸せな朝だと実感した。  もぞもぞと手だけ動かして毛布を奪い返し、弛緩した寝顔のまま毛布の温もりにくるまる。こんな日は二度寝だなと、勇者は自分の意思を尊重することにした。  あくびを一つ、少女へ背を向け。 『……ねむ、だる、あと五時間』  反対側へと寝返りを打った勇者。 『もうっ。ほら、起きないと。ダメですよ、今日の予定は詰まってますよー』  少女は勇者の毛布を無理やり剥がす。  そこには十代半ばの少女。温もりを失って恨めしそうな目を送る勇者がいた。 『えー、やだ』  駄々を捏ねる少女であっても、見かけによらず選ばれた勇者なのだ。  そして毛布をひっぺ剥がした少女も十代半ば。勇者と歳が近いということもあってセットにされている。 『そう言わずに。ほら、今日も一日頑張りましょう。おー! さ、勇者様も一緒に、おー!』 『……ぉー』  一人は元気良く片腕を上げ、快活に朝を迎えようとする者。  もう片方は寝癖で跳ねた前髪をそのままに、口だけ適当に呟き、朝に弱い瞼をしぱしぱとする者。  彼女達は対照的だが、仲は良い。
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