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勇者をベッドから追い出した彼女は服を何種類か引っ張り出す。
服を選んであれこれ悩む姿は新人メイドのようだ。ただ彼女はメイドではない。
服装をコーディネートするのは好きでやっている。彼女の役目は勇者の補助だ。立場はあくまで対等、もしくは勇者よりも上である。
本来の地位は高く、彼女は第三王女と呼ばれている。だが、それには価値が無く、無意味な肩書きでしかなかった。
王位継承はないに等しく、彼女自身も上に立つことを望んではいない。
そんな王女を政略結婚の駒として利用する者もいたが、持ちかけられた縁談は何故か破談ばかり。
器用も良く、王族としての気品もあるのに、縁談の数日後には断られているのだ。誰かに根回しされているのだろうと、文官の一人は推測していたが、確たる証拠はなかった。
勇者の従者のような立ち居ちも、最初は一向に縁談が結ばない王女へ押し付けたようなものだった。
しかし、初めがどうであれ、時を経つごとに二人は仲良くなり、親友になるほど仲を築いていった。
勇者は幸せだった。怠惰に生活しながらも、彼女と勉強したり買い物へ行ったりと忙しない毎日。
それがずっと続けばいいと願っていた。
そう夢のような日々、だった。
だから、辛い。こんな、夢を見るのは。
これは夢。手を伸ばしても届かない過去のユメ。こぼれ落ちた幻想は砕かれて、欠片の破片は現実を映し出す。
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