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不快な揺れも、舗装されていない道を馬車で進んでいるからだろう。
勇者は揺られる衝撃に合わせて左右に首を動かした。だが、これは何だろう。
手を前に触れる。少し錆び付いている鉄の棒。
馬車の横側の木板に突き刺さっている。反対にも同じような空き窓から何本も刺さっていた。
この窓のような空いた空間に、まるで閉じ込めるかの固い棒。これ、どこかで見たような気がする。勇者は記憶を掘るように思い返す。
そして直ぐに、勇者は馬車の形状を把握した。
「ああ、これ……奴隷用の」
この馬車は奴隷を運ぶために作られた物。そう認識した勇者は横目で馬車内を流し見た。
檻が付いている形状の奴隷用の揺りかご。その中には、薄汚れた服を着た子供が何人もいた。
大体確認すると八人の子供。少年少女の割合は少女六に少年二。少女のほうが多い。年齢は十歳前後といったところか。
子供達は寒さに震えてるように脅えを露にしていた。
それが解らなかった。感覚が鈍っている勇者には、何に脅えているのか検討がつかない。
「ねえ、おじさん」
勇者は鉄格子に掴みながら馬車の横で護衛しているのか怪しい男に声をかけた。
欠伸を噛み殺した男は声を発した正体が奴隷だと知るや眉間に皺を寄せた。
「あァ?」
「今の状況、まったく分からないんだけど。説明してくれるよね?」
勇者はつい先程の鮮明な記憶を呼び覚ます。
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