二話

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 一人で魔王城に向かい、勇者として魔王を倒しにいった。魔王と対面するまでには配下やら罠が待ち受けていたものの、切り抜けて全員殺した。  魔王と戦い数回傷を負ったが、結果としては難なく殺すことに成功。  やっと人族に平和が訪れる。あの子が願ったものが一歩進んだ。そう嬉しくもなった。  でもここで慢心するわけにもいかない。和平のためにも勇者として人族のためにも、魔族を排除するという使命を全うしようと意気込んでいたのだ。  これから時間はかかるかもしれないが、魔族の残党を皆殺しにしなくちゃ、そう思っていた矢先のことだった。  地面から魔方陣が展開された。  魔王が使った魔法に酷似している。時間差の罠に引っ掛かったのか――油断が招いたとは故、勇者が魔王を圧倒できるほど強いのは現に証明している。  無敗の勇者が戦闘を優位に進める瞬発力をもって、尋常ではない速度で回避を優先した。  だが、魔方陣は勇者を追随する。跳び跳ねた先にも魔方陣は付きまとい、勇者を逃さない。  ここで対象者を指定した魔法だと推測した。この魔法を避けるには反属性で相殺させるか、魔方陣から種類を割り出し、新たに魔法を上書きするしかない。  されど、勇者は魔王が使った魔法に心当たりがない。否、人族に知れ渡っていない魔法と見るべきだろう。  こういった魔法は回避が困難な利点があるが、致命的な欠点もあった。  魔法を当てることが第一の術式なため、純粋に威力が落ちる。  勇者はどんな魔法なのか知らないが、冷静に禁忌魔法――回復再生魔法の準備をした。  頭部を一撃で破壊されない限りは生きていられる魔法だ。  魔王が最後に置き土産として選んだ魔法を侮ることは出来ない。  反面、勇者は余裕で発動する魔法を見守る。心にはゆとりがあった。  この魔法がもしも大規模な最上級魔法でも、禁忌魔法を用意した勇者に死は無い。 「トラップなんて勇者に効かないわよ」  冥土へ落ちた王へ、勇者はあざけり笑う。  だが、勇者の思惑と異なって、魔方陣は勇者の体に刻み込まれた。刻印が体の隅々まで行き渡り、文字が点滅するや光に包まれ――。 「――ぁ」
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