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「テメェ、この状況が分かんねえってか。あ、いや……おめぇは意識不明だったやつか。仕方ねえ、俺が説明してやるよ」
檻越しの男は勇者をなめ回すように見るや、途中で拾いもんの上玉だと気付き、言葉を言い換える。
あくまで不遜な態度を崩さずに、何が楽しいのかつらつらと求めた回答を述べてくれた。
「いいか、お前は奴隷だ。これから売られる末路のクソったれたガキの一人だ。おめぇ、顔は良いから性奴隷になるんじゃねえか?」
男の気に障る笑い声に勇者はしかめる。
魔王の罠にかかった後、意識を失ったのだろう。そんな柔な体ではないのだが、魔王による魔法によるものか。
勇者は途切れた時間を成り行きから見計らい、あれから数日は過ぎていると見当をつけた。
眠りから覚めた勇者は体調が万全であった。故に、微笑む。
紛れもなく、不覚を取ったのは変わらない。男達に拉致されたのは、勇者が起きていればこんな些事は起こらないで済んだ。
しかし、焦る必要もない。見方を変えれば、魔王城付近で魔物が潜む巣窟の中、意識を無くした勇者を拾ってくれたのだ。
彼等は奴隷として売るつもりなら、人族の都へ行くはずだ。
自前の馬車要らずで勇者を送ってくれるというのだ。なんて親切な奴隷商だろう。
勇者は奴隷商人の飼い犬へ、お駄賃をやろうとするぐらいだ。懐からまさぐるが、あるべき物がないことに気付く。
「おめえが持ってたやつは親分が貰ってったぜ。立派な剣と銅貨袋をよ、残念だったな」
男が目敏く勇者のとった行動を勘違いしてせせら笑う。
勇者は動じない。くれようと思っていた物だ。馬車代として払う手間が省けたと考えた。
ただ訂正する。袋には沢山入っていたと、そんなにみみっちい金じゃないと。
「……銀貨もたくさん入ってたわよ」
「なんだ、おままごとに使う銀貨ってか?」
「そんな歳じゃないわ、ったく。あーあ、聖剣も取られたし、こっちはやれないけど。でもそうね、少しの間だけ貸してあげる」
まあでも。聖剣は召喚魔法で手元に呼び出せる。
選ばれし勇者ならではなのだが、他人が持ち去ったところで痛くも痒くもない。
「はっ、状況が分かってない嬢ちゃんだな」
「状況は分かったわよ。だから銀貨ぐらいくれてやるわ。ありがとうね、おじさん」
奴隷として拐われた子供達が脅えているのに、一人の少女はにっこりとお礼を言った。
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