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「……へえ、そうかい」
状況を知り、銀貨を持っていたことが真実ならば、大事な物を盗られたのだ。値打ち物の剣は確かな物だったため、袋には銀貨も入っていた可能性はある。
というのに、思った反応を返さない少女。男は落胆を隠せない。
「奴隷、奴隷ねえ。それもいいかも」
掴み所がないというよりも、何かがおかしい。奴隷として売られようとしている現状で笑えるやつはいない。それも、どこか楽しんでいるようなコイツは頭の中がズレている。
ネジぶっ飛んだ奴を拾っちまった、と男は誰に聴こえることなく呟いた。
勇者は同じ立場に置かれた少年少女の悲壮感を余所に、危機感などそっちのけで思考する。一考は視界とは別に、脳裏で描く。
わたしの顔――勇者は世界中に知れている。
いくら影に潜む奴隷商人の子飼いが無知で商人がアホでも、奴隷の買い手は金に余裕がある貴族か冒険者だろう。
奴隷となった勇者を見てどう反応するのか。想像して笑う。
常識を持った人間なら卒倒しそうな勢いで国に連絡を入れ、騎士や衛兵が総動員で救出されるはずだ。
常識に外れた者でも、勇者を手懐けようとする者が居るものか。
檻が付いた馬車から下ろされる。勇者と子供達は手錠をかけられ、店へと押し込まれた。
奴隷商人の飼い犬しか拝めなかったが、店に着くと初めて奴隷商人が顔を出した。
一言で表すと太った豚だ。顔には吹き出物があり、呼吸困難なのかコフーと息荒く汗をかいている。
商人の飼い犬は護衛も兼ねているようで、全員がどれも荒くれ者の相貌をしていた。
男達に手錠をかけられるのに素直に従った勇者は、ピクニックへ行く気持ちで子供達が入る店を見上げた。
生憎、裏からの招待らしく、正面の店構えを見ることは出来なかったが、大きさからして立派な建物だろう。
「さっさと来い。クソガキ」
「はいはい、民度が低いクズは言葉も乱暴ね」
「何だとゴラァ!」
男が何とか言ってるが、素知らぬ顔で裏から店に入ると綺麗な店だった。奴隷商ということで汚ならしいのを想像していたため、拍子抜けする。
これなら高級レストランを開いたほうが儲かりそうだなと勇者は辺りを見渡す。
店員も燕尾服を着用しており、ウエイターとして起用すれば問題ないだろう。
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