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「あなたは終わりなの。ねえ、今どんな気持ち?」
散乱した王座の間には、死屍累々の光景が広がっていた。
真っ赤な絨毯は血を吸い込み、赤黒いものに変色している。染み込んだ血液は全て魔族のもの。
魔王の配下は勇者一人に皆殺しにされた。肢体を切り刻まれ、絶え間ない絶叫は今や静まり返っている。
倒れた魔族の顔からは涙のような血が流れていた。
散乱するのは魔族の足や腕。中には原形を保っていない肉片もあった。
勇者は嘲笑う。椅子にぐったりと座る魔王へ向けて。
黒の鎧を着た魔王はボロボロの体だった。片腕を失い、裂傷で血だらけな体は満足に動かすことができないでいる。
そこには、魔族を纏めあげた王の片鱗はなく。
気力も底をつきかけている魔王は、勇者の嘲笑に精一杯の怒気を放った。
「化け物め……っ!」
魔王も攻撃はしたのだ。極限たる最上級魔法や、魔王たる魔力で練った身体強化の一撃。
だが、どれも通用しなかった。いや、何も効かなかったのだ。
魔王は勇者など恐れるに足らない、そう高を括っていた。
だが、だが――。
魔王は片腕だけの手を握り締め、肘掛けに振り下ろす。
――なんだ、この惨状は。我が配下は片手で捻るように潰され、渾身たる最上級魔法は剣を軽く振るうだけで無に還された。
勇者の見掛けに騙されたのだ。人族が士気を上げるために持ち上げている、魔族の大半はそう思っていた。
魔王もその一人。人族の小娘ごときと侮っていた。
何より、魔王率いる我々魔族に敵うものなどこの世にいない、そう自惚れていたのだ。
今さら悔いても、もう遅い。何もかもが遅かった。対策もせず、勇者に勝てるわけがないのだ。
何故なら――勇者は不死身だったのだから。
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