428人が本棚に入れています
本棚に追加
魔王が向けた『化け物』とは誰に言っているのだろうか。勇者は辺りを見渡す。
だが、そういえば全員殺したっけと周りが息をしていない死体だけにやめた。
もう誰もいない。この空間には魔王と勇者のみ。
魔王に相対するのは自分しかいない。ならばと、勇者自身に向けられている言葉と認識できた。しかし、それに勇者は首を傾げざるをえない。
目の前にしか化け物はいないけど、そう小首を曲げる勇者。
白い剣を持ち、血に染めた顔に笑みがなければ、貴族の令嬢に見間違える少女だ。
「化け物はどちらかしら。その醜い顔、下劣で非道な行い。魔王、あんたはっきり言って不快だわ」
「クソ、クソ、クソッ! 悪の化身めが!」
「あーあ、うるさいなあ。喚かれると頭に響くわ。それに、悪の化身ってなによ。わたしは勇者、聖なる勇者よ?」
「何が勇者だ! これだけ同胞を虐殺して、命を弄ぶ者が、勇者であるはずがない!」
「はっ、笑わせてくれるわ。魔族は死ぬべきなのよ。だって、この世界にいらないもの。だから、消すの。この世界を浄化させるわたしは何て素晴らしい勇者かな」
「ふざけるな! 魔族も歴とした生き物だ!」
魔王は掌を勇者へ向けた。魔方陣が展開され、魔王の体を包み込む。
勇者は魔方陣に警戒をするが、魔王の腕から放出されたものは業火の炎。
ただの直線的な最上級魔法かと、勇者は警戒を緩め、剣を握る。
業火は何倍もの大きさに膨れ上がり、勇者目掛けて一直線に向かってきた。威力も普通の人間ならば消し炭となる威力。
だが――勇者は普通ではない。普通では、勇者を名乗れない。
勇者は手に持っていた剣を横に振った。ただ、ただそれだけで魔王の最上級魔法は霧散する。
勇者も最上級魔法を食らえば一溜まりもないのだが、聖剣は魔法を無力化する。
それに頭部以外ならば瞬時に回復出来る魔法があるのだ。体の大部分を貫かれても生きていられる魔法に、勇者は何度も助けられている。
「魔王なんていって、こんなゴミみたいな魔法しか出来ないなんて笑えるわよね。ゴミと同然な魔族なんて死ねばいいのよ。臭いし、生きていられると不愉快しかないもの」
炎は消したが、魔王の体にまとわりつく魔方陣が消えていない。そのことに勇者は気付く。注意を払うが、時間差で放たれる魔法かと安易に結論付けた勇者。
もう魔王には、抵抗出来うる手段がない――。
最初のコメントを投稿しよう!