第1章

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僕らは空想の中で生きていた。 時には火を吹く巨大な龍と剣一本で対峙し、時には彼方に続く大海原にまだ見ぬ島を探して船を出した。 その冒険は幾つもの危険を伴った。 けれど、いつだって僕の隣には双子の兄がいた。 僕らは一卵性で顔もそっくりだったし、考える事も同じだった。 他人とだったら一から説明をしないと通じ合えない世界。 けれど、兄とだったら説明は不要。 それはまるで、SFの顔認証システムみたいに、ピッと小さな音を立てて扉が開くような。 そんな世界を僕達は持っていたのだ。 けれど、一年前兄は事故で死んだ。 僕が風邪を引いて行かなかった遠足での事だった。 僕は沢山泣いた。 まだ途中の冒険があるだろ? もっと話がしたい。 涙は一晩中止まらなかった。 涙が枯れる頃、僕はある事を決意した。 僕らだけの世界でたった1人の兄と冒険を続けようということ。 僕らは空想の中で生きていこうということ。
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