ルセテの目的

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会議後、直樹さんや凛子さんが私に声を掛けてくれたが、あまりのショックで意識が朦朧としていて受け答えた記憶がない。 私はよろよろと沿岸警備隊屯所の副隊長室へと戻り、パウダールームへと入った。 探索機器と髪留めピンを外す。鏡には土気色した私の顔が写っていた。 水道の蛇口付近に手をかざすと水が自動で流れ始めた。その下へと無造作に頭を突っ込んだ。 じゃばじゃばと勢いよく出る水流により一気に頭が覚醒していく。殴られた頬も冷却され気持ちがいい。 ――まだ早い。 職業レア度★は一つハワードが上。装備も戦闘の経験も全て向こうが上だ。 蓮さんから託された"切り札"があったとしても、まだ早い。 三日月宗近というレア度★7の日本刀。 龍王の洞窟入り口で、レター元副隊長と戦う意志を見せた私に戦闘後預かってて欲しいと頼まれた武器だ。 相手のスキルを刀が吸収し、そのストックしたスキルを発動できるという素晴らしい能力を持っている。この世界にきてレア度が上がり★7になったという。 水を止め、バスタオルで頭を拭きながらソファーに腰を下ろした。 じわじわと死の恐怖が私の心えお浸潤していく。 でも、諦めない。 あの日、私は蓮さんに"殺され"生まれ変わった。彼にちゃんと変わったという所を見せたい。そして、もう一度会ってお礼を伝えたい。 こんな所で死ぬわけにはいかないわ。 私はおもむろにテーブルに置いてあった小さめのダンボールを開いた。 中には先日発注した最新型の携帯型探索機器が入っていた。スキルポイント使用率が抑えられているだけで、性能自体は旧式とさほど変わりはない。ネット接続が無線で可能らしいが戦闘には無関係だ。 ハワードに勝つためにはどうすればいいのか。私は出来ることを考えるよう努めた。蓮さんのように。 新しい携帯型探索機器の初期設定を行い装着し電源を入れ直した。 すると――。 ボン、ブンスカ、ブンスカ、ズンチャッチャ……ボン、ブンスカ……ボン、ブンスカ、ブンスカ、ズンチャッチャ……ボン、ブンスカ……。 突如、軽快なリズムが流れ出した。 そして、ウィンドウには二頭身の赤鼻のトナカイらしきキャラクターが映し出された。なぜか徳利を持ってこちらへウィンクしている。 気持ちが悪いので私は電源を落とした。image=510530462.jpg
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