ルセテの目的

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ここでは死なない。 そう何度も何度も自分に言い聞かせ、私はろんぎぬす隊長の懐に飛び込んだ。喉から心臓が飛び出しそうな重圧に耐え、三日月宗近の鯉口を切り引き抜いた。 そして、振り下ろされた龍王の爪を切り上げる。 歯を食いしばり衝撃と痛みに備えたが、巨大な爪も、押し潰さんとする重圧も全て消散していた。 『ぼーっとしてんじゃねー!』 ポルンの声で我に返った私は慌てて距離を取り、いつでもスキル放出が出来るよう三日月宗近を鞘に収めた。 だが、ろんぎぬす隊長は追撃どころか殺気を解き、くるりと私に背を向けた。そして、誰に言うわけでもなく呟いた。 「凄いの持ってんねぇ。あれを吸収するかね、普通。」 「あの……。」 「もういいや。ボクも色々忙しくてさ。凛子ちゃんの三段突きもルセテちゃんの奥の手も見せてもらったし御暇するよ。」 「お前、勝ち逃げすんのかよ。」 「勝ちも何もないでしょ。ボクは見学にきただけだし。本当の勝負はこんな場所でつまらないしねぇ。凛子ちゃんもそう思わない?」 凛子さんが食って掛かったが、ろんぎぬす隊長の相変わらずの得体の知れない雰囲気で煙に巻かれている。 「じゃ、そういうことで退散するよ。」 PDAを操作したろんぎぬす隊長の足元に転送の魔法陣が出現した。 「あー、三日月宗近のことは内緒にしておくから安心して。そっちのほうが面白からさ。」 と、言い残し転送されていく。 私は握る三日月宗近に視線を落とした。メモリ残量は10となっている。つまりあの龍王の爪は8ものメモリを使う強力なスキルだということだ。 ろんぎぬす隊長の目的は一体なんだったのだろうか。 「じゃあ、もっかいウチとやっか?」 暇つぶしということはありえない。もしかして、私の実力を確認しにきた? しかし、何のために。 「おい、ルセテ?」 「すいません、少し考えさせて下さい。」 そうだ。三日月宗近の事をろんぎぬす隊長はどこで知り得たのか。相手の装備を見抜く術はいくつか思い当たる。だがそれは装備してこそ分かるものであってストレージに入れてあったアイテムは絶対に分かるはずがない。 三日月宗近の存在を私以外で知っているのは、蓮さん、凛子さん、直樹さんだけだ。
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