ルセテの目的

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デコピンを受け止められた事が気に食わなかったのか、ボルテクスは鬼のような形相で大きく太い腕を振り上げた。まずいと思った時には横殴りの張り手を喰らい俺は吹っ飛んだ。その衝撃でベイリンの剣は手元を離れ壁に突き刺さる。 激突した壁が崩れ落ち、俺へと伸し掛かった。 「あー、いててて。」 俺は体の上に乗った岩盤を横に押しどけ土埃を払い立ち上がった。 「おっ、それなりに強くなったじゃねーか。」 俺はボルテクスの傍らに立つユナに視線を向けた。 「ユ、ユナさん、ルセテはいつ対決するんですか?」 「無視してんじゃねーよっ!」 ボルテクスルは頭部を後へと反らし喉の奥を鳴らした。 やばい。 かぁぁぁぁぁぁっ、ぺっ! と、龍王が吐き出した痰が瞬く間に火焔の球となり向かってくる。 【岩竜】発動。 その攻撃を受け止めるべく左腕を前に出すと、岩のような鱗をびっしりと生やしたドラゴンの尻尾が俺を巻き込むように出現した。 岩のような尻尾が火焔の球を受け止め、地響きを伴う激しい衝突音が洞窟内に響き渡った。 「が、岩ちゃん!?」 「はい、岩竜さんです。」 龍王の洞窟内で最初に契約したドラゴン。硬い鱗で覆われた尻尾が高い防御力を誇る。かなり高レベルのドラゴンのようだが、遭遇時にはなぜか既に酔い潰れており戦わずして契約することができた。 「ちょっと、岩ちゃんどこ行ってたのよー!おげんこ? 心配してたわぁ。あんた梯子酒も程々にしなさいよ。えっ、もう86軒目? 相変わらずお酒強いのねぇー。」 召喚した岩竜の尻尾は既に消えているが、ボルテクスは俺に向かって岩竜に話し掛けている。仕組みは分からないが、姿はなくとも契約したドラゴンは俺とともにあるということなのか。 昔話に華が咲いているようなので俺は腕組みをしたまま微動だにしないユナに小声で話し掛けた。 「ルセテと戦うそのハワードっていうのは強いんですか?」 一拍の間のあと、ユナはマスクで下半分が覆われている顔をそむけた。 「お前に教える情報などない。」 「ユナさんお願いします。」と何度か問い掛けていると「しつこいから教えてやれ。」とボルテクスが許しを出してくれた。 「畏まりました。メンデルの命令で三日後、沿岸警備隊隊長ハワードと副隊長ルセテが対決します。私の見立てですと100回やって100回ハワードが勝つと思われます。」 「勝機0ってこと!?」 ユナはコクリと頷いた。
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