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―― 3 ――
幅広の長廊下に私の足音だけがカツカツと響いていた。いくつかのドアを通り越し、一際大きなドアの前で止まりノックした。
どうぞ、との合図でドアを開き中へと入る。
「沿岸警備隊副隊長ルセテです。」
デスクに座り書類に目を通していたアイザックは顔を上げ私をチラリとみたが、再び視線を下に落とした。
「三日後の決闘の件でしたら取り消しは不可能ですよ。メンデル国王は大変楽しみにしておられますから。」
「それは承知です。」
「要件は他に?」
「はい。私はハワードとの決闘を希望します。今すぐに――。」
アイザックは顔を上げた。
この国には、場所を選ばずいついかなる時でも幹部に挑んでもよいという決まりがあった。ただし、国王であるメンデルが観戦するというのが条件だ。
「本気ですか?」
「はい。国王様にお伝え頂けますか。」
「それには及びませんよ。貴女がこの部屋に来た時から全ての会話は国王様に聞こえておりますから。いかがしますか、国王様。」
音声のスイッチが入る音が聞こえた後、国王の声が流れた。
「えー、三日後じゃなくていいの。少しでも強くならなきゃ試合にならないんじゃない。」
「国王様こそ、お忘れではありませんか。私達には決闘の自由と能力の秘匿が許されておりますことを。」
「ふーん。俺が見誤るような能力やアイテムがあるってわけだ。」
「それは今から行う決闘でご確認頂ければ。」
「無理だと思うけどな。俺の戦闘眼に賭けてもいいよ。万が一ハワードに勝ったら次期国王をキミに推薦するよ。なんてね。」
「国王様。」とアイザックがやや強めに口を挟んだ。
「冗談だって。じゃあいいよ。丁度今やっていたゲームもクリアして暇になったし。」
「ありがとうございます。では、闘技場で準備いたしますので。」
私は一礼をし、部屋を出た。
国民のことなどまったく考えないメンデルに、イエスマンのアイザック。私達はずっとこの国を仕切る者達のせいで苦しい想いをさせられてきた。
まずはハワードを倒し、いつかはこの国を救う。
一年前までは自分のことしか考えられなかった私が、今ではこの国の行く末を案じるようになっていた。
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