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闘技場には若干の風が吹いていた。全体が国王のオーラで覆われているので空調か内外差の気圧による風なのかもしれない。
周囲を見回すと観客席はお祭り騒ぎのようになっている。その騒々しい数千の観客が私だけを見ていることが不思議だった。
『意外と落ち着いてんなぁ、ルセテ。』
「そうですね。自分でも驚いています。」
隊長対副隊長というここ何年もなかったカードに会場は沸いている。ネットでの賭けも行われているだろう。掛け率はみるまでもないはずだが。
「ポルン様、私の口座から1000万円引き出し、"ルセテ"にBETすることは可能ですか?」
『もちろんだ。お前も賭け事好きなのか?』
「いえ。賭け事は初めてです。」
1000万どころか、命をも賭けるつもりで挑んでいることに間違いはないが、私にしては珍しく遊び心が出てしまった。
『俺はハワードに3万円賭けたけどな。』
「ちょっと、ポルン様っ!」
『冗談だよ。がはははは!』
私、少しだけワクワクしている。
恐怖や不安はもちろんあるけれど、それと同じくらいに自分の力を試したいという想いが自分の中から沸き起こっていることに気がついていた。
ふいに、ポルンの笑い声が途切れた。
『来るぞ。』
との言葉と同時に割れんばかりの歓声が闘技場内に響き渡った。
私の向かい側の通路から現れたのはハワードだ。
決闘のルールは特に定められていない。開始の合図などもなく、お互いが闘技場に入った時点ですでに始まっている。
私は闘技場中央付近に向け歩を進めた。
「ポルン様、よろしくお願いします。」
『任せとけって。』
右側頭部に手をやり微少なオーラを注ぎ込む。私のモニターには、通常では表示されないはずのハワードの細かな情報が書き加えられた。
■ハワード(Lv.697)
◇職業
岡田以蔵(★7)
◇装備
肥前忠広(★7)
土佐勤王党の鎧(★8)
白札の指輪(★7)
ハチガネ(★6)
◇スキル
【暗歩】【衝撃波】【鏡心明智流】【打ち首獄門】
やはり、ろんぎぬすと同じく"ネームクラス"だ。
ネームクラスとは、歴史上の人物名が冠されたクラスのことで、例外なくその強さは尋常ではないらしい。
望むところだ。
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