13663人が本棚に入れています
本棚に追加
/276ページ
それを見たアルトはギョッとし、慌てて数本の矢を連続射撃した。
敵に剣戟間合いにまで入り込まれ斬られる寸前だったが、速射された矢に触れた敵は大砲にでも打たれたかのように吹き飛んだ。さらに、アルトを狙って銃弾が放たれたがそれらを全て矢で打ち落とした。
「やめてけれ。黒い剣は抜かないでけろっ!」
アルトは俺に顔を向け懇願しながら、三人の眉間を打ち抜いた。
強くなっているのは知っているが、よくもまぁそんな曲芸みたいな真似が出来るなと感心してしまう。
周囲を見回すが他に人の気配はない。先発隊にたまたま発見されただけのようだ。
「なんだか雲行きが怪しくなってきているから、地形効果が発動する前に先へ進もう。」
「んだば。」とアルトが返事をした時、PDAが鳴り出した。
確認すると画面上部にメッセージがスクロールしている。
"ルセテ勝利。だが、計画は続行せよ。ユナ"
まじで。
ルセテを救うため龍王に無理いって計画を早め走ってきたが、完全な徒労に終わったようだ。
「どうするっぺよ。」
アルトは赤いサングラスを額に上げ、雪原に反射する光で目を細めている。
「どうもこうも、続行せよって言ってるし。」
と、言いながら俺はアルトの後ろに突如出現した食虫植物を左手から出した炎で燃やした。
このエタンセルに来てから、無理矢理というか嫌々というか、自分の意志ではない行動を強いられている。全てボルテクスが原因だ。
「あとどれくらいだっぺした?」
「あの丘を超えたらもうすぐ。城壁が見えてくるはずだから。」
先程まで雪原を照らしていた光が消え、大きな陰が侵食していった。見上げると上空には巨大な雨雲が完成されつつあった。
地形効果の中でも、最大級の災害――降雷だ。
「アルト、丘まで登り切るぞ。そこで対処する。」
「黒い剣は……。」
「分かってるって。心配すんな。」
俺もアルトもスキル発動のオーラを蓄えながら丘を上っていく。
それにしても、おかしい。これだけ城に接近しているというのに先発隊らしきグループとしか遭遇していない。
未だに警報音は鳴り続けているというのに誰一人プレイヤーが出てくる気配はなかった。
「来るどっ!!」
アルトは叫び弓を上空へと向けた。
最初のコメントを投稿しよう!