4、群盲評象

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「はあ、何でまたこういう事になるんだ……」 俺、槙田久はそう言って、ため息をつく。すると近くにいた同僚の関根寛とほぼ1週間前に偶然知り合い、今回も何故か捜査に乱入してきた加納由紀が俺を睨むと、 「おい久、今は犯人捜ししてるところだ。お前も関係者ならきちんと捜査に協力しろ」 「そうよ久。今回もあんたが事件に関わったんだからあんたが解決するべきよ」 「好き勝手言ってくれる……。第一寛は良いが、由紀は無関係の一般人だろ。捜査に入ってくるな」 すると由紀はいいじゃない!と言って腰に手を置きこちらに膨れ面を向けると、 「今回の事件は私の力が必要よ。何せ女性ばかりが被害者なんだから、あんたたち男だけでは捜査が進まないわ!」 「むちゃくちゃだな……。女性刑事もいるし、何もお前が危ないことに首を突っ込まなくても」 「そんな気遣いは無用よ、私だって覚悟ぐらいはしてきてるんだし。……でも心配してくれるのは、その、嬉しいけど」 「ん?なんだって?」 何でもない!と言うと由紀はそっぽを向いてしまう。まったく、年頃の女性はよく分からん。寛も寛でやれやれという顔をしているし。 「すみません、ちょっと時間が掛かって、……皆さんどうかしましたか?」 若い刑事が申し訳なさそうにこちらに近づいてくると、俺たちの顔を見比べて心配の表情を浮かべる。どうやら言い争いでもしたんじゃないかと思っているのだろうか。 「いや、大丈夫だ。で、どうだった?」 「あ、はい。久さんの言った通りまとめてみましたら、やはりここ渋谷のスクランブル交差点周辺ばかりで、さらに被害者に”あの事”を聞いたところ、全員がそうだったと言ってました」 彼の言葉に俺はそうか……と言うと、 「……やはりそうだったか。となると後は犯人がこちらの餌に食いついてくれるかだが……」 「上手くいきますかね?」 「まだ分からない、その上犯人が本当に単独とはわからないしな。ここからは待つ、待って相手の動きを探るだけさ」 そう言って俺は人ごみに目を向ける。その視線はある一点に向いていた。 ここで少し時間を遡ろう。昨日、この事態に巻き込まれる数時間前だ。
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