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石碑とその周囲を満遍なく調べ尽くして何も無い事を確認すると、俺達はその村を抜け出して元の山道まで引き返した。
しばらく緩やかな曲路が続いている。
「結局、何も無い所だったね。」
「ああ……そうだな。」
「次の街に着いたら……って、また地図見てるの?」
「ああ。」
地図は分岐点を越える度に開いている。此処の様に自然溢れる場所は一歩間違えるだけで危険区域に飛び込んでしまうからだ。
それだけ慎重さを求められる道だった。下手をすれば高ランクの魔物と遭遇していた。
だが、今回に限っては経路の確認の為ではない。
「やっぱり……何度見回しても《アルゴス》なんて名前の人里は無いな。」
「古い村だからじゃない?昔の話なんだよきっと。」
「そう、なのかもな。」
ただ何も無い村なら興味なんか持たない。
しかし、書き置きに添えられたゼラ・リトスという名前の姓は俺を引き付けるものだった。
これは俺の祖父、ラル・ソルトの旧姓と一致するものだ。恐らく何らかの繋がりがあるのだろう。
「………些事か。」
だがそんな昔のやり取りは今となっては余計な情報でしかない。俺は今のスローラル王国のためこうして足を進めているのだ。油を売っている場合ではない。
先程目にした光景を払拭するように頭を振る。そうして正面を見据えると、変わらず続いてた景色に変化が現れた。
「………」
「う、うわ……」
曲路の終わり。どうにか王都まで見渡せる景色は惨憺たる有様だ。多くの場所が薄暗い色に包まれ、生気を感じさせない。
王都の上空に多く飛ぶ黒い点々は例の魔物達だろうか。やはりスローラル王国の心臓は人外によって支配されているようだ。
「見ておけ、ジェム。」
今俺はどんな顔で話しかけているのだろう。目の前の光景を浮いた意識のまま見つめながら言葉を紡ぐ。
「あれが────俺達人間がいずれ必ず取り戻さなければならない場所だ。」
鼓動が激しさを増す。
理性と様々の事情を無視した激情が俺の琴線を震わせる。気付けば革製のグローブがギチギチと音を立てていた。
そして、皮肉にもその脅威の強大さが俺に冷静さを取り戻させるのだ。まるでお前は無力であると突き付けるように。
「……行こう。」
目を落として歩き出す。ジェムの返事を聞く余裕などこの時の俺には無かった。
麓まで、俺は悪夢を見るような思考の沼に沈んでいた。
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