遅過ぎた帰還

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「小都市の半分を魔物が埋め尽くしているんだったか……一体どうやって凌いでいるんだろうな?」 「バリケードという可能性が真っ先に浮かんだが、空からの攻撃もあったと言うからな……正直俺にも見当がつかない。」 辻褄の合うように目撃情報と照らし合わせると、ギルド員達が交代制で戦い続けている可能性がある。魔法だけなら魔力補給体(オーブ)の貯蓄分だけ放つ事ができるからな。 しかし、だとすれば…… 「限界が近いかもな……」 「なに?」 ジョットの顔がこちらを向く。縁起でもない言葉に嫌悪感を感じたようだ。良い顔をしていない。 「ヤルタ村まで片道三日かかる。そこから考えると、あの支援要請を持って来たギルド員がキャンベルを脱出してからおよそ一週間も経っているわけだ。」 「そりゃあ……」 「もし戦い続けていると考えたなら、市民の体力も限界が近い事だろう。」 洒落にならない予想をしてしまい、自分の顔が強張って行くのが分かった。多くの人の命が奪われているかもしれないのだ、焦らずには居られない。 「はっ……こりゃあ疲れが吹っ飛ぶな。」 「ああ……そうだな。」 他人の不幸は蜜の味……嫌な言葉だが、正にこれは今の俺達に相応しい言葉なのかもしれない。ただ歩き続けている俺達よりも苦しんでいる人々が大勢いるのだ、自身の身体の疲れを忘れる事があってもおかしくは無いだろう。 そう、頭の中が幾分か前向きになった直後だった。 「ギ、ギルドの方々ですか!?」 「!」 俺達一行の遥か前方、声の響いてきた方を見ると、林道の向こう側から灯火が近付いて来るのが分かった。皆して思わず合図も無しに走り寄る。 近付くと、王国指定の装備を纏った兵士である事が分かった。 「関所の衛兵か!?何故此処に……!」 「は、はい!渓谷の方から数本の煙が上がっているのが見えたので……」 「それよりもだ!キャンベルは無事なのか!?」 俺もライアン殿と同じ様な疑問を抱いた。てっきり戦える者は全員市の中心に出払っていると思い込んでいた。 顔を見ると血色も悪くないようだ。まさか……魔物の群れを退けたのだろうか? 「そ、それが────」 気まずそうに話す衛兵の口から語られたのは、俺達が目を見開くような難しい問題だった。
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