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故郷の様子がどうしても気になるセラ。自分の蒔いた種だ、噂がどこまで大きくなろうと関係無い。最終的には先の女子に類する友人達も味方に付け、カイルと共にライゼンバーグをひっそりと抜け出した。
女子特有のコミュニケーション能力を伴う情報操作。一人狼で情報収集を行うカイルにとっては天敵でしかなく、この巨大な情報の波紋を止める事は出来なかった。
「それにしても貴方、本当に魔法が苦手なのね。所詮は噂だと思っていたけど……それじゃまるで───」
「うるせぇ、今までは誰かさんが良い隠れ蓑になってくれてたんだよ。」
「え、ええ……そうね。じゃあ最近は?」
「それは、ホラ……先生方と上手く話し合いをしてだな?」
「………そう言えば、貴方が学園の演習でステージに上がっているところを見た事が無いわ………」
セラは戯(おど)けた口調で話すカイルを呆れた目で見つめる。どうしてこのような男を連れて来てしまったのだろうと、今更ながら少し後悔した。
「ふぅ……でも、野宿をする際は助かったわ。さすが自称情報屋を名乗っているだけはあるわね。」
「自称は余計だ!俺だって外で寝るなんて初めてだったんだからな!?偶然色々知ってたから良かったものの……!」
ぶつぶつと文句を垂れるカイルだが、是が非でもセラの誘いを断ろうとする姿勢を見せた事は無かった。きっと、彼も心の中の何処かで故郷の無事を知りたいという気持ちがあったのかもしれない。
決して気を落とさないカイルを見て来て、セラは申し訳ないという気持ちを膨らませつつも心強さを感じていた。
「ハァ……やっとだな、魔力補給体(オーブ)はもう必要無さそうか?」
「ええ、この距離なら今の魔力残量でどうにかなるでしょう。魔物も居ないみたいだし……このままキャンベルまで走りましょう。」
「ああ、そうだな────!?」
故郷まで残り少しのところだった。あと少しでゆっくり休めるという安堵感が油断を生んでしまったのかもしれない。
カイルは慌ててセラの足を止めさせようと彼女の腕に手を伸ばす。
「待てッ!」
「キャ!?な、何よっ……」
二の腕を掴まれ、驚いたセラはやや怒り気味の表情でカイルの方に振り向く。文句を言おうとしたところで、彼が訝しむような細い目付きで小都市に続く林道の暗闇を見つめているのが分かった。
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